大阪湾の中でも北東部の海域は、東風が吹くと釣果が悪くなる傾向があります。とりわけ回遊魚への影響が大きく、青物狙いやサビキ釣りの釣果が悲惨な状況になるときも。
風向きによって釣れなくなってしまうのはなぜか?これには大阪湾ならではの理由がありました。
塩分濃度が低い海になるから釣れなくなる
東風が塩分濃度の低い水を西へ運ぶ
大阪湾の北部で東風が吹くと魚が釣れにくくなる。その理由は東風によって塩分濃度の低い海水が西へ運ばれてしまうからと考えられます。
通常、大阪湾は西寄りの風が吹いていることがほとんどですが、東風が吹くと回遊魚を中心とした釣果に悪影響を与えます。普段は問題なく釣れるサビキ釣りで魚が釣れなくなり、その魚をエサとしている青物の釣果も落ちてしまいがち。
一方で汽水域にまで侵入できるようなチヌやシーバスの釣果は上がることも。
大河川が大阪湾に真水を供給する
淀川や武庫川の流れ込みが要因
塩分濃度が低い海水はどこからやってくるのか?
それは大阪湾の北東部に集中している大きな川の河口付近表層から。
大阪湾北東部は武庫川、神崎川、淀川などの大きな河川から絶えず大量の真水が注ぎ込まれています。この中では存在が地味な神崎川ですが、実は武庫川の数十倍の流入量があります(出典[PDF]:大阪湾環境データベース II大阪湾の環境(2)大阪湾周辺の環境)。
大雨や台風のあとの増水により、濁流の流れ込みとガレキで釣りどころじゃない状態になることもしばしば。やはり大雨の後の東風はよりいっそう釣果が落ちやすい。
海水より比重が小さい真水は表層にたまり、その真水を東風が西へ引き込みます。後述しますが、塩分濃度の薄い水が表層にたまる傾向は暑い時期ほど顕著になります。
大阪湾は閉鎖的な海域
大阪湾は北西の明石海峡と南の紀淡海峡という狭い湾口部でしか外洋と繋がっていないため、海水の入れ替わりが少ない閉鎖的な海域であることも塩分濃度が低くなる要因となります。
ネガティブにとらえれば富栄養化しやすい海ではありますが、見方を変えれば魚のエサが豊富な海であり、「魚庭(なにわ)の海」という表現にも納得できます。
大阪湾で東風が吹きやすいシチュエーション
東から接近する低気圧に向かって風が吹き込む
大阪湾で東風が吹くとき、多くの場合は東側に低気圧が発生しています。
台風などの低気圧は中心に向かって反時計回りに風が吹き込む構造のため、低気圧が接近して通り過ぎるまでは東寄りの風が吹き続けます。雨風が強く荒天になることも多いでしょう。通過時はみるみるうちに風向きが変わって通過後は西寄りの風に変化。ここから徐々に天気と釣果が回復していく傾向になります。
近くに低気圧が無くても、九州付近に台風が接近している場合は同じようなシチュエーションが再現され、動きが遅く停滞気味の台風だと影響が数日にわたって長引くことも。
低気圧や台風は気圧の変化による魚の捕食行動に影響を与え、通過後、天候が回復するとともに魚が爆釣するということもよくある光景です。
大阪湾北東部はもともと塩分濃度が低い
暑い時期ほど東風の悪影響を受けやすい
湾奥に向かうにつれ塩分濃度が下がる
大阪湾北東部の河口が近い海域は、増水していない通常時でも塩分濃度が低い海。
例えば太平洋などの外洋は塩分濃度がおおよそ3.5%です。瀬戸内海はこれよりより低い塩分濃度であることが知られていますが、その東端である大阪湾はさらに低い塩分濃度になっており、北東部の湾奥に向かうにしたがってさらに低くなる傾向。
以下の図は夏季における大阪湾表層の塩分濃度分布を表したもの。
図中にある31、19などの数値は実用塩分と呼ばれる数値で、これを1000で割ったものが塩分濃度のパーセンテージになります。つまり最も小さな19という数字は1.9%の塩分濃度。
タイミングによっては1%程度になることも
武庫川一文字や南芦屋浜などの湾奥では、タイミングによってなんと1%程度にまで下がることがあるようです(出典:大阪湾環境データベース)。
大雨のあと茶色く濁った湾奥の海で、川から流されてきたブラックバスがサビキ仕掛けに掛かっているのを見て驚いたことがあります。しかし湾奥における塩分濃度の低さを知れば不思議なことではありません。淡水魚も海水魚も体液の塩分濃度はおおよそ0.9%なので、それに近い塩分濃度の海水ならとりあえずどちらの魚も生きていけるからです。
河口付近ではさらに低くなることが推測でき、これが東風によって表層を伝い西へ広がることで釣果に悪影響が出ると考えられます。
夏季の塩分濃度が低くなる理由
そもそも夏場は雨量が多いため供給される真水の量が多くなります。そして真水は海水に比べて比重が小さいから表層にとどまりやすい。
さらにその水は夏の強い日射で温められ膨張し軽くなるため、なおさら表層にたまりやすくなる。
一方で海底付近は通常の塩分濃度を保っています。これにより底層の濃い海水と表層の薄い海水が混じりにくくなり「成層化」するという悪循環が起こります。この成層化は湾奥にいくほど顕著になり明石海峡や紀淡海峡の湾口部、沖では少なくなります(出典:大阪湾環境データベース)。
気温と水温が下がるにつれこの現象は解消され、冬は湾奥の塩分濃度も上がっていきます。
詳しくは大阪湾環境データベースに掲載されている情報をご確認ください。
東風はまさに鬼門
東風の影響は秋以降も続く
これらのことから、東風による釣果の落ち込みは暑い季節ほど影響が大きくなる可能性があります。涼しくなった秋でも影響は継続し、ベストシーズンなのに風向きひとつで釣果がさっぱりなんて日も。
暑さを振り切って釣り場に向かったものの、海面がいつもと違うタールのような色をしていて生臭く釣れなさそうな気配。そしてやっぱり釣れなかった…サビキにすら無反応…。私自身も何度かそんな経験をしています。
やはり大阪湾北部の釣りにおける東風は鬼門。
誰が鬼門と言い出したのか知りませんが、古来から鬼門とされている北東の方角からきた海水が悪さをするというのもうまくできた話です。
釣行時は風向きのチェックを
釣行の判断基準として
アメダスをチェック
もともと塩分濃度が低い大阪湾北東部の海水。その海水が東風に運ばれることによる釣果の落ち込み。そして降水量が多く気温の高い夏場ほど影響が大きくなる。釣りのオンシーズンに東風が吹くとなぜ釣果が悪くなるのかご理解いただけたはず。
もともと動かせない予定で入れた釣行なら仕方ないですが、ふと思い立って釣りに行こうとする場合は、直前に神戸空港などのアメダスで風向きをチェックするといいかもしれません。
状況によっては釣行を断念するのも正しい判断ですし、ゼロではない可能性にかけて竿を出すのも間違っていません。
逆に淡路島沖から塩分濃度の濃い海水が引き込まれる南西風のときは、釣果に期待していいかもしれません。
苦潮が起こる風向き
大阪湾北部では東風以外鬼門となる風向きがあります。
例えば秋に湾奥で起こりやすい苦潮(青潮)。強い北風により表層の海水が沖へ吹き流される代わりに、海底付近にある酸素濃度の低い海水が接岸する現象です。これも釣果には悪影響を与えます。
釣行を決めるひとつの判断基準として風のチェックをしてみましょう。
では最後にYMOの東風(tong poo)を聴きながらお別れです。