”魚にあたる”と聞けば多くの人はサバを思い浮かべるはずです。
他の魚より食中毒になりやすい要因があるのは確かなこと。しかし正しい知識を身につけて正しい処理をすればサバにあたるリスクは確実に下げられます。
「サバにあたる」ということはどういうことなのでしょうか?
さばにあたる原因は主に2つある
ヒスタミンとアニサキスがサバ食中毒の原因になる
サバにあたるということ。これには主に2つの原因があり症状も異なります。
それぞれが引き起こす症状は異なります。
サバによる食中毒の症状
それぞれ共通の対策でリスクが減らせますが、症状のメカニズムは全く異なるのでその差異を知っておく必要があります。
腸炎ビブリオにも注意しよう
海水由来だからサバ以外にも同等のリスクがある
もうひとつ腸炎ビブリオという細菌でも食中毒が起こる可能性があります。
海水中に存在する細菌のため、海産物であればサバに限らず注意すべき食中毒です。この記事で詳しく取り上げませんが軽視していいわけではありません。
しっかり冷やしてしっかり真水で洗おう
腸炎ビブリオによる食中毒は重篤な症状になる可能性もあり、過去には集団食中毒による多数の亡事例があります。その点においてアニサキスとヒスタミンよりよっぽど注意すべき食中毒です。(出典:腸炎ビブリオ食中毒とは?|大阪健康安全基盤研究所)
釣った直後から調理まで10度以下の低温を保つこと、調理前に真水で洗うことでリスクを下げられます。食味と言葉のインパクトを重視するあまり「魚の下処理に真水を使うのはNG」という表現をYouTubeでよく見かけますが、危険で無責任な発信です。
魚を美味しく食べられるのも安全が担保されてこそ。正しく恐れて正しく対策しましょう。
ヒスタミンによるサバの食中毒
ヒスタミン食中毒の症状
アレルギーのような症状が出る
サバを食べたあとに、ブツブツができたり熱が出たり顔が紅潮したり吐き気がしたり。アレルギー反応のような症状が出ます。(ヒスタミンによる食中毒 |「食品衛生の窓」東京都保健医療局)
ヒスタミン食中毒の原因
鮮度落ちが原因でヒスタミンが発生する
サバのタンパク質そのものに対してのアレルギーもありますが、多くの場合鮮度落ちによるヒスタミンの摂取が原因。
鮮度が落ちることでサバにもともと含まれているヒスチジンからヒスタミンが生成されてしまい、それを摂取することでアレルギーに似た症状を発症します。
学校給食でも起こりやすい食中毒
保育所や学校の給食で発生することが多く、ヒスタミン食中毒者の年齢別割合は15歳未満が60%程度を占めます。(出典:厚生労働省の平成18~27年の調査結果)
学校施設での集団ヒスタミン中毒はときおりニュースとして報じられます。
ヒスチジンは青魚全般に多く含まれる
ヒスチジンはサバを含む青魚全般に多く含まれる成分。
実はサバよりカツオやマグロに多く含まれており、赤身魚として知られる魚はヒスチジンを多く含んでいると考えていいでしょう。(出典:ヒスタミン食中毒 | 消費者庁)
ヒスチジンはそれ自体に害のあるものではありません。なんなら必須アミノ酸としてサプリメントが売られてたりもします。
ヒスチジンからヒスタミンになるのには明確な原因があり、対策をすることによって高確率で回避が可能です。
ヒスタミン食中毒の原因と対策
【原因】サバの生き腐れ
ヒスタミンが発生する原因はサバの鮮度低下によるもの。
サバの鮮度が低下するに伴って、内蔵やエラにふくまれるヒスタミン産生菌の酵素がヒスチジンをヒスタミンにかえてしまいます。
サバは釣ってからしばらく経ち鮮度が落ちると内蔵がどんどん溶けて腐敗が進み、お腹の中がデロデロの状態になっていきます。これが俗に言う「サバの生き腐れ」。外見上は新鮮そうに見えても内部で腐敗が進行しているという状態です。
【対策】釣った直後から調理まで冷却し続ける
サバの鮮度が落ちるスピードを低下させる手段があります。
ひとつは調理するまでとにかく冷やした状態を保つこと。釣ったサバは常温で放置せず、できるだけ早くクーラーボックスに入れて冷やしましょう。そして持ち帰ったら内蔵を抜くなどの下処理をなるべく早く済ませる。そしてまた調理するまでは冷蔵保存の徹底。
【対策】できるだけ早くサバの内臓を抜いておく
自分で釣ったサバの場合はさらに効果的な処理方法があります。釣れた直後にその場で内蔵と血を抜く処理です。こちらに関しては後ほど詳しく説明します。
買ってきたサバであっても条件は同じかあるいは釣ったものより鮮度が悪いことも多々あるので、買ったらなるべく早いうちに内臓とエラを抜く処理をしたほうがいいでしょう。パッケージに入って売られているサバでも、お腹がブヨブヨしている、お腹を押したら肛門から何かが大量に出てきた、全体的に輝きが無いなど、鮮度を判断できる要素があります。
釣った直後の新鮮なサバを知れば、鮮度が落ちたものかどうか全体の雰囲気で一次的な判断ができるようになります。
ヒスタミンは加熱や冷凍で消えない
煮ても焼いても凍らせても乾燥させてもリスクが残る
ヒスタミンは熱を加えても凍らせても毒性が消えないという厄介な性質があります。(出典:ヒスタミンによる食中毒について | 厚生労働省)
傷んでいても焼いたり煮たりすれば大丈夫…そのように思いがちですが、ヒスタミンは熱で無効化することができません。カチコチに凍らせてもダメです。カラカラに乾燥させてもダメ。この点はアニサキスより厄介です。
鮮度が落ちてるともうアウト。塩焼きにしてもサバ味噌にしてもダメ。干物にしたってダメ。冷凍してもダメ。粉末にしてもダメ。捨てるしかない。
サバの加工食品でも起こり得る食中毒
この特性のせいでサバを利用した加工食品であってもヒスタミン食中毒が発生する可能性をはらんでおり、学校給食でそれが起こる要因のひとつだと推測できます。
安全だという先入観がある缶詰でも食中毒が起こり得ますし、出汁をとるためのサバ節でもその可能性があります。(出典:魚や加工品に多いヒスタミン食中毒 加熱で防げず 解凍後すぐ調理を – 産経ニュース)
アニサキスによる食中毒
アニサキス食中毒の症状
胃に激痛をもたらすアニサキス
カツオやマグロ、サワラなどの青魚に多いアニサキス。これを生きたまま胃や腸に取り込んでしまうことで強い腹痛をもたらすのがアニサキス食中毒の主な症状。刺身など生で魚を食べる際に発生します。
イワシやアジなど釣りのターゲットとして身近な魚にも潜んでいる可能性がありますが、とりわけ寄生が多いとされているのがサバです。(出典:アニサキスが潜む魚種は??クジラが増えたから食中毒が増えた? | 魚食普及推進センター)
魚売り場で売っているようなサバからも当たり前に見つかるごくありふれた寄生虫です。地域差や個体差はありますが、海の綺麗さなどは関係なく寄生しています。
アニサキス食中毒の原因
【原因】アニサキスは人間に寄生できない
アニサキスが胃壁を食い破るから痛い!というイメージがあるかもしれませんが、アニサキスにそこまでの力はありません。
胃液というアニサキスにとっての地獄から逃げようと頭を胃壁にもぐりこませる程度。アニサキスなどのせん虫類を観察していると分かりますが、彼らは体をくねらせて前に進むことしかできません。
【原因】物理攻撃ではなくアレルギー反応で痛みが出る
アニサキス食中毒の痛みはアニサキスが胃に潜り込んで突き刺す物理攻撃というより、アニサキスが分泌するアレルゲンが胃壁と反応することによるアレルギー反応の痛みらしいということが分かっています。(出典:アニサキス食中毒は、アレルギー反応の可能性が高い! | 魚食普及推進センター)
アレルギー反応ということは、同じようにアニサキスを胃に入れても痛みを感じる人とまるで平気な人がいる可能性があります。花粉症のように。
そして蜂に2回刺されるとアナフィラキシーショックを起こすのと同じく、一度アニサキス食中毒を起こすと次にアナフィラキシーショックを起こして重症化する危険もあります。
いずれにせよ体が弱っているときは生食を避けるのが無難といえます。
最も効果的な対策は加熱
【対策】焼いたり煮たりすれば回避できる
ヒスタミンと違ってアニサキスは火を通しさえすれば食中毒を回避できます。加熱で簡単に死ぬからです。
先述のヒスタミンと違い、サバを揚げたり焼いたりする調理なら気にする必要はありません。気を付けなければいけないのは、生や生に近い状態で食べる場合です。
サンマにもよくついている寄生虫なので、サンマの塩焼きで内臓も食べる人は今まで気付かず口に入れて消化しています。こんどサンマを食べるときは内臓をほじくってじっくり観察してみてください。それがアニサキスかどうかは断定できませんが、白くなった死んだ糸状の寄生虫が高確率で見つかるはずです。
冷凍保存も効果的な対策
【対策】マイナス20度以下で24時間冷凍する
マイナス20度で24時間冷凍すれば死ぬとされています。
よって業務用の強力な冷凍庫で一定時間凍らせたものならアニサキスに対しては安心と言えます。締めサバは生のサバを塩や酢で締める調理方法ですが、市販の締めサバは一度冷凍処理されたものがほとんどです。
家庭用冷凍庫は性能の確認を
家庭での冷凍庫ではアニサキス対策の条件を満たせないと言及されることが多いのですが、製品のスペックから判断する限りは一概にそうとも言えません。
例えば私が使っているセカンド冷凍庫の説明書を改めて確認したところ、標準設定で約マイナス20度になるとの記述がありました。強設定ならマイナス30度前後。これなら効果的な対策ができそうです。
あなたがお使いの冷凍庫も性能を確認してみてください。
目視でアニサキスを除去する
【対策】ブラックライトを照射して除去する
アニサキスは目に見える大きさの寄生虫なので、目視で見つけて除去するのも対策のひとつです。
そこで役立つのがブラックライト。波長が365nm付近のUVを照射するとアニサキスが光るというのが最近知られるようになった知見です。
しかし身に深く潜り込んでいては発見が困難。慎重を期すならやはり熱を通すか冷凍が確実です。
酢や醤油ぐらいでは死なない
アニサキスはとてもタフ
「きずし(いわゆるしめ鯖)にする場合は酢がアニサキスを死なせるから、加熱や冷凍をしない生でも大丈夫なんだね?先人の知恵だ!」なんて思うかもしれませんが、酢ぐらいでは簡単に死にません。醤油やわさびも同様。
市販の魚についていたアニサキスを塩粒にそのまま埋めたことがあるのですが、一時的に弱りはしたものの簡単には死にませんでした。
小さく細いから無意識に噛むのは困難
人間の歯と顎の力をもってすればダメージを与えられると思われますが、アニサキスは糸のように細いのでしっかり歯が噛み合う箇所で噛むのは難しいでしょう。
噛めたとしても意外と強靭です。例えばカマキリのお尻から出てくるハリガネムシ。あれほど硬くはないですが似たような体のつくりです。
加熱で死んだアニサキスがアレルギーの原因になることも
耐熱性のあるアレルゲンをもつ
アニサキスによる健康被害は生きたアニサキスを体内に入れることによって胃や腸に激痛をもたらすもの、というのが一般的な理解です。
しかし、そのアニサキスのたんぱく質自体がアレルギーの原因となるケースがあります。
アニサキスがもつアレルゲンには耐熱性をもつものがあり、熱を通して死んだ状態でも起こり得るので加熱で回避できません。これはここで説明するより、さとなお氏の実体験をお読みいただくべき。
この経験から、のちにアニサキスアレルギー協会を設立されたようです。
アレルギーの原因は身近にあるから
加熱後のアレルギーまで気にし始めると、アニサキスよりもアレルギーの原因になることが多い蟹や蕎麦も忌避しなければならないということになってしまいます。ごはんもパンも牛乳もキウイも桃も危険ということになります。
危険を回避するためにそれらを避けるのも間違っていないですが、実生活で完全除外するのは難しいこと。
そういうこともあるんだなという程度に知識として頭に入れておけば、もしもの時の判断材料になるかもしれません。
サバの食中毒対策は冷やすことが重要
先ほど挙げたヒスタミンとアニサキス、そして腸炎ビブリオによる食中毒。これらを回避するために共通で最も効果的な方法があります。それがこれ。
釣ったサバを迅速に冷やして保管する
釣ったサバを直ちに冷やすこと。そして調理前までしっかり冷やし続けること。つまり鮮度を保つということ。冷やすことでヒスタミンの生成を抑え、アニサキスが内臓から身へ移動するのを防ぐことができます。
釣ったら潮氷でしっかり冷やそう
氷でキンキンに冷えた海水で氷締めをする
具体的な方法はシンプル。
クーラーボックスに保冷材や氷を入れ、そこに海水を注いでキンキンに冷えた「潮氷」を作る。釣れたサバを出来るだけ早くそこに漬けて冷やす「氷締め」をする。たったそれだけ。
これをやるやらないで食中毒のリスクが大きく違ってきます。見た目の美しさや美味しさも違ってきます。生臭さや味にも影響するのです。
常温での放置は厳禁
釣れたサバをバケツなどに入れて放置するなどはもってのほか。地面に置いておくとかとんでもない。
夏場などはすぐにお湯のような温度になってしまうので、そこに長時間放置するというのは積極的に食中毒の原因を作って不味くしているのと同じ。
YouTubeでみたすごい血抜きとか締め方を試すのは魚の扱いに慣れてからすればいいです。まずは潮氷の中で冷やすこと。これを頭に入れておいてください。
サバの刺身は美味しいけど自己責任で
サバの生食で食中毒になる原因を知り、それに対してしっかりした処理を行えば刺し身で食べることも可能です。率直に言って鯖の刺身は美味しい!おすすめできませんがおすすめしたい…!
安全に美味しくサバを食べよう
サバの食中毒について解説しました。
私自身知識をつけた対策をし続けた結果、同じものを食べた家族を含め今までサバにあたったことはありません。きっちり処理すれば食中毒のリスクはゼロに近くなる。とはいえその実体験を根拠にして生でも安全だよと断言することもできません。
サバに限らず魚を食べるということ自体に多少なりともリスクが伴うことは知っておくべき。過度に恐れる必要はないけど、同時に100%安全ということも有り得ないのです。正しく恐れましょう。