氷のように冷たい海水に生きた魚を直接入れることで、締めと冷やしこみが同時にできるシンプルで優れた処理方法。それが氷締めです。
保冷剤や氷でキンキンに冷やされた海水を潮氷(しおごおり)と呼びますが、塩分による氷点降下現象により潮氷の水温は理論上最低でマイナス2度程度に。魚が絶命するほどの低水温ならアニサキスも死滅させられそうな気がしますが、果たしてどうでしょうか?
氷締めではアニサキスは死滅しないが対策になる
死滅させるには冷凍庫レベルの冷却が必須
冷却によるアニサキスの死滅条件
結論から書くと氷締め程度の温度ではアニサキスを死滅させられる条件に遠く及びません。
厚生労働省が提示している冷凍でのアニサキス死滅条件は以下の通り。
-20℃で24時間以上冷凍
-20℃で24時間以上冷凍することにより、ようやくアニサキスが死ぬとされています。(出典:厚生労働省ウェブサイト「アニサキスによる食中毒を予防しましょう」)。
氷締めはアニサキスの死滅条件を満たせない
一般的なクーラーボックス内の環境では再現が不可能な温度帯です。アニサキスはある程度までの低温に耐えられる強靭な体を持っているので、この程度では死なないのです。
しかし、氷締めをすること自体は食中毒対策になります。
身に移動するリスクを減らすことができる
アニサキスは鮮度が落ちると身に移動する
アニサキスの大半は魚の内臓に寄生しています。
内臓に寄生しているアニサキスは鮮度が落ちるにつれて身に移動するとされており、身に深く潜り込んでしまうと発見や除去が困難になります。
氷締めで身に移動するリスクを減らせる
氷締めで低温を保ち鮮度を維持することで、アニサキスが身に移動するリスクを減らすことができます。
また、死滅させることはできないにせよ0度付近の低温になればアニサキスの動きが緩慢になるため、足止め効果も期待できます。
氷締めでアニサキスを死滅させることはできませんが、アニサキス食中毒になるリスクを減らす効果は期待できます。
最初から身に寄生している場合もある
アニサキスについて認識しておかなければいけないのは、魚が生きているうちから身の中に寄生しているケースがあるということ。
この場合、氷締めでリスクは軽減できません。釣ったその場で内蔵を抜いたとしても同じです。大半が内臓に寄生しているのは確かですが、最初から身に潜り込んでいる場合があることも覚えておく必要があります。
氷締めはアニサキス以外の食中毒リスクも減らせる
ヒスタミン食中毒リスクを減らせる
サバを筆頭とした青魚に多いヒスタミン食中毒。
もともと魚に含まれるヒスチジンという無害な物質が、鮮度低下によってヒスタミンになることにより食中毒が発生します。
これは氷締めで低温を保ち、鮮度保持することで大きくリスクを減らすことができます。
腸炎ビブリオ食中毒リスクを減らせる
海水中に存在する細菌で、あらゆる海産物で起こり得る腸炎ビブリオ食中毒。
ビブリオは海水程度の塩分濃度かつ水温15℃以上で活性化します。つまり海水での常温保存ではリスクが増大するということ。
こちらも海水と魚を低温に保つ氷締めを行うことでリスクを減らすことができます。
食中毒は保冷でリスクを減らせる
氷締めを含め、魚を低温で保存することは美味しく食べられるようにするとともに、食中毒リスクを減らすことに効果的です。
死んだ魚の常温保存はなるべく短い時間にとどめ、迅速に冷やすことが魚を美味しく安全に食べるための最低条件です。