魚はサイズが大きくなるにつれてその価値も上がっていきます。
マダイしかり、タチウオしかり。
理由は明確。大きくなるほど美味しくなって市場価値があがるから。
確かに30センチ以下のチャリコサイズなマダイより40センチを超えるマダイのほうが美味しいし、いろいろな料理方法が選択できて可能性も広がる。大阪湾で海釣りをする人ならば、細くてペラペラなベルトサイズのタチウオより、1メートルを超える肉厚のドラゴンサイズタチウオのほうが遥かに美味しいことを知っているでしょう。
しかし、小さいサイズのほうが価値のある魚も存在します。その代表格がコノシロ。シンコ、コハダと呼ばれる10センチ程度のサイズが重宝されます。
でも大きなコノシロだって美味しいのです。小骨さえクリアすれば脂がのって絶品。
コノシロは小骨が多い魚
小さいコノシロは寿司ネタとして有名
小さいサイズのコノシロはシンコやコハダと呼ばれ、寿司ネタとして有名です。とはいえ関西ではあまり人気は無く、あくまで関東が本場のお寿司。
でも酢締めにしたコハダの寿司は美味しいですよね。私は魚の酢締め自体が大好きなのでコハダのお寿司も好物です。コハダに近い種のサッパは大阪湾でもよく釣れるので、サビキで釣れたら自分で酢締めにして食べています。いわゆる岡山名物のママカリってやつ。
コノシロは小さいサイズを酢締めにしたものを寿司ネタにするので、小さいサイズのほうが重宝されます。お寿司一貫に半身がネタとして使われていることがほとんどなので、一皿二貫でちょうど一匹分。だから10センチぐらいまでしか成長しない小魚だと思われている方も多いかもしれません。
小骨が多いから大きいコノシロは敬遠される
でも実は30センチ近いサイズにまで成長します。
実際にそのサイズのコノシロを釣ったことがありますが、ずっしりと重くボラを釣ったかと思うほどでした。
それがこれ。
これはサビキで釣れましたが、ルアーを投げているとスレ掛かりすることもよくあります。コノシロパターンを狙ってルアーを投げたことがある人は経験あるんじゃないでしょうか?
この大きさなら、1匹でたくさんの寿司ネタがとれてお得では?
と思うじゃないですか?でも大きいサイズのコノシロにはひとつ問題があるんです。それは小骨の多さ。
実際に小骨を確認してみよう
ではここでコノシロを3枚におろした半身を御覧ください。
冬が差し迫った11月に大阪湾で釣ったコノシロです。マアジ狙いのサビキ仕掛けで波止から釣れました。この身は腹骨(肋骨)をすき取った状態です。
ボロボロになっているのは私の包丁の腕が未熟だったせいなので気にしないでください。この身にはアジやサバとは明らかに違う点があります。わかりにくいので図示しますね。
赤い点線は背骨から平行に伸びている、いわゆる血合い骨がある位置。だいたいどんな魚にもありますよね。この骨は半身をさらに上半分と下半分に切り分けて血合い骨の部分だけを取り除くことで簡単に除去できます。あるいは一本一本骨抜きでつまんで抜くか。コノシロの場合はほとんど気にならないというか骨が無いような感じ。
問題になるのは緑の点線で図示した部分に入っている骨。上神経骨と呼ばれる骨です。
この上神経骨が厄介なんです!包丁で切り分けて簡単に取り除こうとしても、血合い骨とは違って変な角度がついているので上手くいきません。そもそも半身の上半分を更に切り分けるなんてことをすると、食べられる量がわずかになってしまいます。
骨抜きで一本一本抜いていけば取り除くことはできますが、なかなか大変な作業。なので一般的に大きなコノシロは流通しないのだと思われます。調理の手間、コストがかかりますから。
コハダサイズの小さいコノシロは小骨の処理が簡単
でもサイズが小さいにしろコハダサイズでも小骨があるのでは?
それは正解。たしかに同じ位置に小骨があります。でも30センチサイズのコノシロと比べればうんと細い骨ですし、酢締めにすれば骨が柔らかくなるので問題ありません。さらに寿司ネタにする場合は、包丁で切れ込みを入れて骨切りをするので、口の中で骨が気になることはありません。
寿司屋でコハダを頼むのは「通」だという考えがありますが、塩や酢の加減、小骨の処理をする技量や心遣いができる職人かどうか見極められる試金石になるからじゃないかな。
大きなコノシロは美味しくないのか?
しかし大きなコノシロも手間暇をかけて小骨を抜いていけば普通に食べることが出来ます。
じゃあその手間暇をかける価値、それに値する美味しい魚なのか?
答えはYES!
実は大きいコノシロは美味い。とりわけ寒い時期に釣れたコノシロは脂がのって美味い。脂がのっているということは旨味も強い。
ではここでさっき載せたコノシロの身をもう一度見てください。スマホでご覧の方は拡大してみてください。
見が白濁してますよね?腹の部分なんてマグロのトロみたいに筋状のサシがはいっています。これは脂がのっている証拠。実際、捌いているときは、包丁や手に脂がついて難儀しました。
コノシロを漢字で書くと「鮗」。魚へんに冬でコノシロ。そう!この漢字から分かるようにコノシロの旬は冬というわけです。漢字を考えた昔の人、分かっとるやないか~。
というわけで、冬に釣れた大きなコノシロは美味い。これは確かなことであります。昔の人も知ってたし、私も知っている。みんなも今知った。
でもどうやって食べればいいのか。問題の小骨はどうするのか。
包丁で骨をたたいてなめろうにしたら絶品だった!
小骨さえ処理すれば美味しく食べられるはず
要するに小骨さえなんとかやっつけてしまえば、大きなコノシロも美味しく食べられるわけです。
骨抜きでつまんで丁寧に抜いていけば、そのまま刺し身にして食べられます。でも大きなコノシロを初めて釣った当時の私はまだまだ料理のスキルに乏しく、骨を抜くという選択に至りませんでした。そもそも骨抜きを持っていなかった。
ハモみたいに骨切りってやつをすれば食べられるはずという考えも浮かびましたが、当然そんなことができる包丁スキルもありませんでした。
ではどうしたかというと、パワーで押し切ろうと考えたのです。細かく包丁でたたいて骨を細かくすれば食べられるはずだと。つまり「なめろう」にすればいいのだと!
コノシロをなめろうにして食べた
というわけで、三枚におろした身の皮をひいてから適当に細かく切りました。
そしてまな板の上で、酒、醤油、味噌、大葉、ネギと和えます。
そしてそれを包丁でたたく!ひたすらたたく!たたく!たたく!
ちょっと叩き過ぎた感もありますが、無事になめろうができました。
なめろうにするまえに骨がない箇所で味見をしたので、この時点でこのコノシロの脂のりや旨味の強さは分かっています。確実に美味いはず。
なめろうは熱々の白ごはんにのせて食べました。う、美味い!口の中でとろける脂!ちょっとばかりしつこすぎるかもしれない脂でしたが、それを大葉やネギなどの薬味がうまくフォローしています。なんぼでもごはんが食べれるぞ。
料理の知識や腕がないゆえ消去法的に作ったなめろうでしたが、その選択は大正解でした。
大きなコノシロでも酢締めで食べられる!
コノシロは酢と相性がいい魚で酢締めが代表的な食べ方ですが、それは小さいシンコやコハダサイズに限ってできる食べ方…いや違う!大きなコノシロでも酢締めにできる!
ではご覧ください。
25センチを超える大きなコノシロの酢締めです。30分程度の短い時間だけ酢に漬けました。
大きなコノシロは小骨が邪魔じゃなかったっけ?そうです、30分酢に漬けた程度では小骨にほとんど変化がありません。ではどうして小骨をクリアしたかというと、酢から引き上げて切り分ける際に5ミリ程度の薄さにそぎ切りをしました。包丁の刃を通すたびに、ジャキッ、ジャキッと骨を切る感触がします。
薄く切っても多少は骨が口にあたる感触はありますが、食べる際にはたいして支障ありません。ウナギでもハモでも食べるときに多少骨の感触があるじゃないですか。あの程度です。それでも気になるのであれば、1本ずつ抜いていきましょう。面倒な作業ですが、それをする価値はあります。
冬のコノシロは脂がのっているので、浅い酢締めならトロっととろける食感。特に身と皮の間の風味が絶品です。もしかしてこの皮の部分、炙ったらさらに美味しいのでは?
はい炙りましたよ!
炙るとパチパチと音を立てながら皮目の脂が香ばしい香りを漂わせます。ではいただきましょう。
美味い!たまりません。コノシロ本来の旨味、脂の旨味、酢の旨味、醤油の旨味、焼けた皮の香ばしさ。それらが口の中に押し寄せてきます。小さなコノシロでは再現できない味でしょう。
さらに細かく切ればほとんど骨は気になりません。
今回は浅漬けでつくりましたが、2日ほど酢に漬けておくと小骨は気にならなくなります。長く漬けたぶん身がしまって固くなりますが、それはそれで美味しいので好みの問題かなと思います。ご自分の好きな酢の加減を見つけてください。
コノシロは捨てずに食べろ!
コノシロはあまり専門的に狙う魚ではないので、多くの釣りにおいて外道とされる魚です。
サビキで思いがけず釣れたり、ルアーでスレ掛かりしたり、長い間釣りをしている人は出会ったことがある魚のはずです。
釣れたら「なんだコノシロかよ」という気分になってリリースしてしまうことが多いかもしれませんが、冬に釣れたのなら一度味わってみてください!美味しさは保証します!